放蕩記

科学ライター荒舩良孝の日記

栃木のトラフグ

ブログを続けていると、誰もが一度は通る道がある。

「何を書こうかな」「書くことが思い浮かばない」

という現象だ。

それが早くもやってきた。

「早すぎるだろう」というツッコミはさておいて、こういうときに助けになってくれるのが、以前取材したときの情報だ。

 

去年の12月に、私は栃木県の山間の町である那珂川町に取材に行ったことがある。

何の取材かといえば、フグだ。

「え、え、何て?」といわれそうだ。

山の中へフグの取材にいったのだ。

フグは海の魚である。

そのフグが海のない山で育てられていたのだ。

なぜ、そのようなことができるのか。

秘密はその町の地下から出る温泉水だった。

那珂川町で湧く温泉は、塩分濃度が0.9〜1.2%と、海水の3分の1の濃度ながら、成分が海水に近いために、海の魚を育てることができた。

もともと環境調査会社の社長をやっていた人がそのことに気づき、高級魚のトラフグを育てはじめたのだ。

山の中でトラフグを育てるというのは、荒唐無稽のような話に聞こえるが、那珂川町付近は、大昔は海の底だった土地で、塩なども取れるところもあったそうだ。

温泉が塩分を含むのはその影響だと考えられる。

また、トラフグ自身、3.5%ほどある海水の塩分濃度をえらで0.9%くらいまで薄くして体に取りこんでいるらしいので、温泉で育てると天然物よりも大きくなるという利点もあるという。

1000匹ちょっとからはじめた養殖も、今や年間4万匹を出荷するまでになり、町の大きな観光資源にまで育ってきている。

取材では養殖場を見せてもらいましたが、25mプールにたくさんのトラフグが泳いでいました。

あと、別の水槽で泳いでいた赤ちゃんフグがとてもかわいかったですよ。

ただ、この日は取材が終わったらすぐに移動しなければいけなかったので、トラフグを食べる時間がなかったのです。

それだけが心残りでした。

では、今日はこの辺で。

www.ganso-onsentorahugu.com

 

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久米島の海洋深層水

昨日の記事では触れられなかった、久米島の話をしましょう。

昨日の記事が気になる方は、こちらをご覧下さい。

arafune.hatenablog.com

 

番組の中では、久米島海洋深層水クルマエビや海ブドウの養殖に活用しているという話をしていました。

海洋深層水というのは、水深200mより深い海を流れている海水のことで、水温が低く、ミネラル分が多い(つまりしょっぱい)というのが、特徴となっています。

久米島は南に位置しているので、海水温は高くなるのですが、クルマエビが卵を産むときや海ブドウの養殖には温度が上がりすぎるとよくないので、水温の低い海洋深層水を活用することでクルマエビが卵を産むようになり、質のいい海ブドウができるようになったといいます。

番組では紹介されていませんでしたが、その他にも冷たい深層水を活用することで、夏場の久米島でも熱に弱いほうれん草を栽培できるようになったそうです。

 

ここまで書いただけでも、海洋深層水はいいことずくめのようですが、何せ深海から汲み出さないといけないので、活用できる場所は限られています。

久米島は陸地の近くでも、すぐに水深1000mと深くなっているので、海洋深層水を汲み出しやすい地形になっているそうです。

島の中にはいろいろな場所に海洋深層水が供給されているので、それを使ったビジネスが進んでいるということです。

その中でも、私が注目しているのが、海洋温度差発電です。

海洋温度差発電というのは、深層水と表層の海水を両方汲み上げ、その温度差を利用して発電していくというものです。

海洋温度差発電なので、表層の水温と深層の水温の温度差が年間を通して20℃ほど開いている場所がいいわけです。

久米島はその条件を満たしていることもあって、世界初の海洋温度差発電の実証実験プラントが建てられ、2年近く稼働しています。

現在は実証試験なので、出力50kW規模の発電機2台で発電をしていますが、近い将来1000kWクラスの発電設備をつくり、商業発電に向けて駒を進めていく計画になっています。

海洋温度差発電はどこでもできるわけではないので、それほど広がらないかもしれませんが、実用に近い位置にいる地産地消型の新しい電源として 注目できるものです。

 

この海洋温度差発電については、以前、大阪ガスのエネルギー・文化研究所で発光している情報誌CELで書かせてもらったことがあります。

このときは、「海洋資源から見える未来の日本」というタイトルで、海洋鉱物資源や海洋発電などについて書いています。

記事はWEBでも公開しているので、よかったら読んでみてください。

www.og-cel.jp

 

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(写真は昨日に引き続いて、種子島のものです。

 久米島にはまだ行ったことはありませんが、いつか行ってみたいですね)

 

日曜朝のがっちりマンデー

日曜の朝はTBSテレビのがっちりマンデーを見るのが好きだ。

この番組は儲かるしくみやビジネスをいろいろな角度から見せてくれる。

今朝のテーマは「儲かる島」。

離島でのビジネスだ。

 

離島というと、観光くらいしか思い浮かばない人が多いかもしれないが、その島の特色などを活かして、ビジネスへとつなげている人たちも多い。

 

今朝紹介されていたのは、

 沖縄県 久米島

 奥尻島奥尻ワイン

 八丈島のロベ栽培

の3つの話題だった。

 

奥尻のワインは、1993年に起きた北海道南西沖地震がきっかけで誕生したという。

奥尻の建設会社が、島の雇用機会をつくるために人手がかかるブドウ栽培をはじめ、ワイン造りにまで広がっていったのだ。

もともと、ブドウにもワインにも何の関係のない建設会社が、雇用機会をつくるためにブドウをつくりはじめたというのも驚いたが、粘土質で水はけの悪い土地に建設資材のパイプを埋めて土地を改良してしまったという話にも驚いた。

初めてのことにも、怖じ気づかずにチャレンジしていく精神は、すごく見習っていきたいと思った。

 

この奥尻ワインはブドウが潮風にさらされるおかげで潮の風味がするという。

一度飲んでみたいものだ。

okushiri-winery.com

 

 八丈島のロベとは、観葉植物として人気のあるフェニックス・ロベレニーのこと。

ロベの葉は花束やフラワーアレンジなどでよく使われるそうだ。

八丈島はこの植物の栽培が盛んで、日本に流通しているロベの葉の約9割を押さえ、島の経済を支えているという。

 

久米島の話は明日にでもしたいと思います。

では。

 

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(写真は私が行ったことのある離島の1つ、種子島で撮影したもの)

 

星パン屋に行ってきた

今日は横浜に行く用事があったので、そこから足を伸ばして磯子区に行ってみた。

 

磯子区には宇宙や星をテーマにした星パン屋というパン屋さんがあるという。

まがいなりにも宇宙や星についての文章を書く身としては、これは行かない手はないということで、実際にどんなお店なのかを見に行ってみた。

 

星パン屋はJR根岸線根岸駅から歩いて8分くらいの場所にある。

Google先生のナビゲーションに従って歩いて行くと、住宅地の方向へと進んでいく。

こんな場所にお店があるのかなと不安になったりもしたが、ちゃんと見つけることができた。

小さな一軒家という佇まいのお店で、ドアの横のステンドグラスがちょっとメルヘンな感じ。

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中に入ってみると、落ちついた雰囲気で、優しそうな店員さんが迎え入れてくれた。

営業時間が17時までで、僕が到着したのは16時過ぎだったから、多くのパンは売り切れで、お客さんは1人だけだった。

さっそくパンと飲み物を選んで、イートインで食べた。

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僕が選んだのは、オリンポス(4種のチーズのパン)、太陽のほっぺ(焼き豚カレーパン)とSPACE TEA。

あまりにおいしそうなパンだったので、昼食にラーメンを食べたことも忘れて2個も頼んでしまった。実際、パンはもっちりしていておいしかった。

お店の中で流れている曲も宇宙関連のセレクトでとても居心地のいい空間だった。

生活エリアから遠い場所にあるので、頻繁には行けないが、神奈川方面に行って余裕があるときはよってみたいお店だ。

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シンポジウムで考えたこと

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少し前の話になるが、4月28日におこなわれた「研究成果を なぜ発表し どのように伝えるか」というシンポジウムを聞きにいった。

私も一応、科学を伝える人たちの末席に座らせてもらっている身なので、勉強がてらいってみたのだ。

 

科学広報や科学ジャーナリズムに携わっている人、これまでの自分の経験や知識などを活用し、科学のあり方を考え、科学者などの実情を広く知ってもらおうと活動している人など、多彩な顔ぶれが集まって、それぞれの立場からいろいろな話を聞くことができた。

 

その中でも特に印象に残ったのは、早稲田大学教授の岩崎秀雄さんの話。彼は研究者でもあり、アーティストでもあるので、科学研究の成果を論文という形だけでなく、作品という形にして発表していた。論文という、いわゆる科学研究者の枠組みにとらわれずに、自分の思うように自己表現しているように聞こえた。

 

私は科学ライターという仕事をしている。

科学は日常生活と大きく関わっている側面がある。

科学は縁遠いなという人たちにわかりやすく科学のことを伝えたり、研究者がなぜそんなに一生懸命研究に取り組んでいるのかということを扱っていきたいなと思って活動をしてきている。

が、いろいろな意味で中途半端な感じが常につきまとっている。

 

本当に自分が何を伝えたり、表現したいのかということは常に考えているが、なかなか見えずに、手探りでやっているというのが現状だ。こんな状態でも仕事はあるし、頼りにしてくれる人がいるということはとてもありがたい。

 

自分は何を表現していきたいのか。何を世の中に問いかけていきたいのか。

この問いの答えを見つけられる日は来るのだろうかと思いながらも、今日も原稿を書く日々なのだ。

DMM.make体験

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秋葉原にできたDMM.makeのスタジオに興味があったので、行く機会がないかなと思っていたら、ちょうど、開設0.5周年記念のワークショップをやるという。
 
問い合わせをしてみたら、ちょうど1名空きがあるというので行ってみた。
 
参加したのは3Dスキャナ体験ワークショップ。
最新鋭の3Dスキャナーを使って3Dデータをつくるというものだ。
3Dスキャナという言葉は、何か、FABっぽい、最先端のモノづくりというイメージを醸し出している。
当然、スキャンしたいものを置けばお手軽に3Dデータにしてくれるのではないかと、淡い期待を抱いてしまう。
 
しかし、現実はそんなに甘くない。
 
3Dスキャナには、スキャンできるものと、そうではないものがあるのだ。
具体的にいうと、黒いもの、透明なもの、カラフルなもの、毛羽立っているものなどは、スキャンできないのだ。
 
何だか、いきなり不便な気分になってしまったが、そうなのだ。
なぜ、そういうことが起きるかといえば、3Dスキャナはスキャンしたいものに光を当てて、その反射光の情報を読み取るからだ。光を反射しにくいものはスキャンが難しいというわけだ。
 
私の場合は、黒いものだったり、スキャナが認識しにくいものしかなかったので、ちょうどスタジオにあった化石恐竜のミニチュアをスキャンしてみることにした。
 
実際にスキャンする段になると、また、あの考えが出てくる。
そう、人形を台においてスイッチを入れれば、自動的に3Dデータに変換されるのではないかという、あの考えだ。
 
が、しかし、やはり現実は甘くない。
たくさんのマーカーが書いてある台の上に乗せたところで、何が起きるわけでもない。
ある角度からスキャンをして、回転台を少し回し、またスキャンをする。基本的にこれの繰り返し。
 
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人形を1周回し終えても、画面に現れているのは不完全な像だけだ。
立体物なので、影になってしまったりしてスキャンできない部分も出てくるのだ。
そのときはどうするのかって?
人形を立たせていたとしたら、寝かせたり、向きを変えたりして、再び同じことをする。
それを何度も何度も繰り返し、撮った画像の位置合わせをしていくという、ひたすら地道な作業の繰り返しだ。
そして、位置合わせが終わったら、マーカーなど、余計な情報を消して、スキャンデータは完成する。
 
それでやっと3Dデータを作りあげても、それをすぐに3Dプリンタで出力することはできない。
いや、できることはできるが、もう一手間加えた方がいい。
モデリングソフトなどを使って、データをさらにきれいにすることで、よりきれいな造形物をつくることができる。
 
実情をあまり知らないと、3Dプリンタや3Dスキャナは、ボタン1つで何でもできてしまう魔法の道具のように思ってしまう。実際、そう思っている人も多いだろう。
今回、3Dスキャンの体験をしてみて、どんな方法でも、ものをつくるという行為は、地道でコツコツとした作業を経るものだということがよくわかった。
そのような作業を積み重ねた先に、人を驚かせたり、感動させたりする作品が生まれるんだということを改めて感じた。
 
おしまい。

地球外生命

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(写真:土星の衛星エンケラドゥス  NASAより)

 

宇宙関連の話題の中で、たくさんの人の興味を惹くのが宇宙に生命がいるのかという話。

「宇宙に生命がいるか」と問われれば、答えはYesとなります。

「見たことあるの?」といわれそうですが、見たことあります。

 

地球も宇宙の一部なので、地球にいる生命も宇宙生命の1つといえるわけです。

だから、誰でも見たことがあるのですよ。

 

「何だ」といわれちゃいそうですね。

 

でも、地球以外で生命を探そうという研究はいろいろなアプローチがされています。

そのなかの1つで、最近、とても有力な研究結果が報告されました。

土星の衛星の1つであるエンケラドゥスに熱水環境があることが実験で示されたのです。

生命が存在するには、有機物、水、エネルギーの3つの要素が必要だといわれているわけですが、その3つを満たす場所はまだ見つかっていません。

満たしそうだなという場所ならたくさんあるのですが、本当に満たしていると照明された例はなかったわけです。

 

でも、今回、エンケラドゥスでそれが証明されたわけです。

そのことについて、現在発売されている科学雑誌Newton 2015年6月号に書いています。

2ページのニュース記事ですが、よかったら読んでみてくださいね。

 

 

エンケラドゥスは氷の衛生なので、ふつうは内部に海があるとか、生物がいるかもしれないということはわからないのですが、氷の裂け目から海の成分が噴き出していて、それを分析することで、いろいろなことがわかってきたのです。そういう意味ではすごくラッキーですよね。

 

エンケラドゥスの探査はこれから進むと思いますが、それ以外にも地球外生命を探す研究はいろいろとされています。

そういったことも、これから追々書いていこうと思います。